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アルコールの分子間脱水と分子内脱水で温度が違うのは活性化エネルギーの問題になるんですか?

活性化エネルギーと、生成物のエネルギー準位の問題かな。これを説明するには高校化学をやや逸脱する必要がある。 まず前提として、以下がある。 1:活性化エネルギーの話:低温で起きるジエチルエーテル生成反応の方が、高温で起きるエチレン生成反応よりも、活性化エネルギーは低い。 2:エネルギー準位の話:ジエチルエーテル生成反応の生成物(ジエチルエーテルと水)の方が、エチレン生成反応の生成物(エチレン×2 + 水×2)よりも、高エネルギー準位にいる。 これを踏まえて濃硫酸中でのエタノールの脱水反応を考える。加熱を続けていき、140℃付近になると、まず低い方(ジエチルエーテル生成反応)の活性化エネルギーの山を越えるのに十分なエネルギーがエタノールに与えられ、ジエチルエーテルが生成する。このときエチレン生成反応の活性化エネルギーはまだ越えられない。この反応がしばらく続いて(加熱を続けても温度が上がらない時間がある程度続いて)、途中から昇温が再開され160℃付近に達すると、この時点でようやくエチレン生成反応の活性化エネルギーの山を越えられるようになる。このとき何が起きるかが重要。この時点で、ジエチルエーテル生成反応の活性化エネルギーもエチレン生成反応の活性化エネルギーもどちらも越えられるような環境になっている。つまり活性化エネルギーの議論だけを考えれば、160℃ではジエチルエーテルもエチレンも両方とも同じぐらい(あるいは活性化エネルギーが低いぶんジエチルエーテルの方が多く)生成してもいいはず。しかし実際はエチレンが主生成物になる。なぜかというと、エチレン生成反応の方が生成物のエネルギー準位が低いから(計算してみると、エチレン生成の方がジエチルエーテル生成反応よりも400 kJ/molぐらい低エネルギーにある)。反応系全体としては、どちらの活性化エネルギーも越えられるなら、より安定な生成物を与える方を優先するというわけ。ここまでの話をまとめると、低温時はジエチルエーテルが主生成物、高温時はエチレンが主生成物となる。 以上です。実はこの話、大学で化学をやると「熱力学的支配」「速度論的支配」という言葉で習うトピックです(低温で速度論的支配、高温で熱力学的支配)。また、ジエチルエーテル生成反応はSN2反応、エチレン生成反応はE2反応というもので、これも大学の化学でやります。高校化学には大学化学の種が沢山埋まってますね。 参考: ・反応エンタルピー変化の算出 https://www.eng-book.com/ebw/Table_sort_stdenthalpy_stdentropy_sort.do https://www.you-iggy.com/ja/chemical-substances/diethyl-ether/#thermodynamic -properties-section ・より詳しい解説 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/50/1/50_KJ00003522585/_pdf/-ch ar/ja https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/47/7/47_KJ00003520939/_pdf 加筆: この回答を作ってるのとほぼ同時に、sin有機化学さんがこんな動画を上げていました。こちらも見るといいかも。 https://youtu.be/iqE0YnnePUQ

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