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感性アナライザについてどう思いますか?

感性アナライザって東急が社員につけて「集中度測る!」とか言って話題になったやつですね。全く信頼してません。 しかし一応文献を確認してみたところ,僅かに考えが変わりました。色々紹介します(長いです)。 ただし一番肝心な論文っぽい「脳波による感性アナライジング (満倉, 2016)」は金払わないと読めないので諦めました。ご理解ください。 ①「脳波を用いた EC サイトのユーザビリティ評価 」 URL: https://www.dentsusciencejam.com/_news/_img/kanseieng_EC.pdf これによると,安静閉眼で75秒脳波をとって,それをベースラインにするようです。 脳波をとるのはFp1(だいたい左眉の上らへんです)の1チャンネルだけ。なるほど。 後はどうでもいいので読みません。 なお,実験室で脳波をとるときは64チャンネルくらい使うのが普通です。 ②感性アナライザによる感性計測(1)(Web記事) URL: http://sensait.jp/12675/ 感性アナライザを作った会社・電通サイエンスジャムの方が書いた記事です。 2章のノイズにかんする記述はおおむね正しいですね。 肝心なのは3.1節からでしょう。要するに,満倉研が17年溜め込んだ大量のデータセットを使って,脳波から「好き」「ストレス」「興味」等の定量化を行う……らしいです。 一気に怪しくなってきました。この記事は「ノイズは除去できますよ」から「なので脳波から感性が定量化できますよ」とヌルリと繋げていますが,どれだけノイズを除去したところでたかが1チャンネルのデータでしかありませんし,そもそも1チャンネルのみのデータでどれくらい信頼あるノイズ除去ができるのか謎です(→④も参照)。 フーリエ変換から明らかなように,1本の波が瞬間瞬間に持つ情報は各周波数における振幅と位相のみです。感性アナライザは1秒ごとに値を出力するそうですが,関心のある周波数帯のうち一番遅いのが4Hzなので(上は22Hz),たぶん1秒まるまる使って1つのパワースペクトルを得ていると思われます。 たかが1枚のパワースペクトルから,「好き」や「ストレス」のようなよくわからない値を予測できるものでしょうか? 特徴抽出とかパターン解析とか書いてありますが,何をやったところで元のデータはただのパワースペクトルです。それも4−22Hzしかない。 ともあれ,一応他の文献もみてみましょう。 ③「脳」を見える化する〜感情の可視化と脳を用いた研究〜脳機能および心電計測を用いた定量評価によるストレスに対する脂質摂取の影響評価 URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/20/11/20_499/_pdf/-char/ja 製作者の満倉氏が最近書いたものです。 詳細なアルゴリズムは割愛されていますが,脳波だけでなくホルモンの解析も行っているそうですね。僕はホルモンのことは何も知りません。どれくらい予測精度があるんでしょうか。 ストレスの指標としては,酸素化ヘモグロビン濃度が使われているようです。これの妥当性も僕には判断しかねます。まぁ何かしら相関関係はあるんでしょう。 ④生体信号のユビキタスセンシングと意味抽出および実利用化 URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/53/7/53_605/_pdf/-char/ja これは2014年に満倉氏が書いたものです。 被験者は6人の保育園児(少ない),紙芝居を見ている間の脳波をとります。 同時に視線計測も行い,視線の有無によって,紙芝居への興味の有無を1秒ごとに定義しています。解析に使うデータは5分なので,パワースペクトルと興味の有無(0/1)の対が300個得られます。 ごちゃごちゃ書いてますが,要するに300対のデータについて回帰をやっています。僕は統計に明るくないので,RMSECVの値がどんなもんなのかはよくわかりませんが,まぁたぶんそれなりに二値の分類はうまくいってるみたいです。それを興味の有無と本当に呼んでいいのか,はさておき。 なお,この論文によると,1チャンネルでのノイズ除去としてNMFという手法が提唱されているようですね。この論文内だとあまりうまくいってないみたいですが。それから後半では「特定の周波数を落とす」ことの意義が提唱されていますが,たぶん感性アナライザではここまでやってないと思います(75秒のベースラインのみから落とす周波数を選ぶのは無理そう)。 ⑤脳波によるリアルタイム感性計測とその応用―実社会における感情・感性を用いる試みの広がり― URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/essfr/13/3/13_180/_pdf/-char/ja これも満倉氏が最近書いたものです。序盤でKANSEIがどうこう語ってるのはどうでもいいので無視してください。 ここでも指標の話が少しだけふれられており,ストレスであればコルチゾール,安心感であればオキシトシン,等々を参照しているそうです。 後半では耳鳴りの苦痛度と脳波の関係を調べています。苦痛度は質問紙ですね。「10%水準で有意」とかいう面白い記述がありますが,これは著者自身も「もう少し精度を上げるべき」と書いています。 ◯まとめ さて,直接のアルゴリズムが書かれた文書は見つかりませんでしたが,感性アナライザのやっていることは大体予想できました。 たぶん質問紙やホルモン値などの値と,Fp1での脳活動との対を事前に大量に取得したうえで(=例の17年分のデータセット),それをドカンと回帰した計算式を内蔵しているんでしょう。 感性アナライザが測れると主張する指標は「興味、好き、ストレス、集中、沈静、嫌、快適、爽快β、食べたいβ」の9種です。βって何?ポケモンカード?って感じですが,まぁどれも方針は同じはずです。嫌/快適あたりは心拍や発汗を取っていそうですし,集中は雑に注意課題の成績とか視線の移動範囲の分散とかが使えそうです(勝手な予測ですが)。 であれば,方向性自体はおかしくないと言わざるをえません。まぁどうせ予測精度がマジでしょうもなかったり,そもそも質問紙なり視線計測なりの定量化が既にガバガバだったりするんでしょうけど,それは今参照できる情報からは判断しかねます。 そして何より,その手の「ガバガバじゃん」の批判は認知科学一般にわりと当てはまっちゃうんですよね。むしろ実験認知科学者が無視しがちな「予測」に取り組んでいる(フィッティングして終わりの論文も多い)あたり,あまりバカにしてばかりもいられない気はします。

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