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どうしてβ崩壊すると原子番号が1増えるのでしょうか?
またイオン化とは何が違うのでしょうか?

どうも頻出質問らしいので、少し長めに答えます。以下「β崩壊」は「β-崩壊」を指すものとします。(β+崩壊というのもあるんです。ややこしいですね) β崩壊っていうのはβ線、つまり高速の電子を放出するような崩壊のこと。ここで注意なんだけど、この電子は原子核の周りをまわっている電子が出てきている(イオン化)わけではなく、原子核から出てくるの。ここがイオン化とは違う。 で、ここで高校化学をまじめにやってる学生は「え?原子核って陽子と中性子からできてるじゃん?電子なんかないじゃん?どっから電子出てくるの?」って思うわけね。 実は核物理学/素粒子物理学では「中性子(n)は電子(e)と電子ニュートリノ(ν)を放出することで陽子(p)になる」という事実が知られてるのね。こういうことなんだけど。 n → p + e + ν つまりβ崩壊は「中性子が陽子に変化する」って崩壊なの。その副産物として電子、つまりβ線が出てくるってわけ。中性子が陽子になったら、そりゃあもちろん原子番号は1増えるよね?というわけで、β崩壊するとその各種は原子番号が1大きい別の元素になります。おっけー? ーーーーーーーーーーーーーーー で、「おっけーじゃねえよ」ていう人が現れるわけね。何がおっけーじゃないかというと、たとえばさっきの説明だと、「中性子をさらに割ると陽子と電子と電子ニュートリノになるってことになるけど、中性子を割ったら出てくるのはuクォークひとつとdクォークふたつじゃないの?」っていう疑問とか。 さて、クォークレベルで考えてみましょう。uクォークを“u”、dクォークを“d”と表記すると、陽子と中性子はそれぞれ、(u,u,d)と(u,d,d)で出来ているのね。で、これを見ていると、どうやら陽子と中性子の根本的な差ってクォーク一個分の差だってことに気付く。「つまり中性子の中のdが一個だけuに変化すれば中性子が陽子になったことになるな?」っていうのが察せる……よね? で、実はクォークを調べてみると、次のような変化を起こすことが分かったのね。 d → u + e + ν dは電子と電子ニュートリノの放出してuになる。このような素粒子同士の変化を「フェルミ相互作用」という(ちなみにフェルミ、100番元素フェルミウム(Fm)の命名由来の学者と同じ人)。と、いうわけで、このレベルでβ崩壊を見ると特に矛盾なく電子が放出されていることがわかるかな?どう?今度こそおっけー? ーーーーーーーーーーーーーーーー ここにきてなお「おっけーじゃねぇよ」っていう人……は、もう大学で素粒子物理学を勉強するしかないんだけど、一応補足。dがuに崩壊するということについて、もう少し細かく見ると、ウィークボソン(W)という粒子を使って d → u + W という風に書ける。Wは大変不安定な粒子であり、以下のように崩壊する。 W → e + ν このような二段階反応が起こっているわけね。なお、このような素粒子の変化を「湯川相互作用」といいます。あるいはこのような素粒子間の相互作用は「弱い相互作用」として理解されています。このあたりの詳しい説明は私には荷が重いので各自勉強でよろしくお願いします!

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