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初めまして!いつも楽しく拝読しています。
私は今まで小説は読む派だったのですが、読書が好きになればなるほど、文字を使って人々の心を動かすことができる素晴らしさを体験してみたいと思い、最近小説を書き始めました。
書き始めるととても楽しくて、寝る間も惜しんで初めて掌編小説を完成させました。
まだ経験も技術も未熟だと分かってはいるのですが、今後の成長に向けて、どのように創作活動を励むべきか、その道しるべのようなものを得たいと思います。お忙しいことと思いますが、辛口なアドバイスをよろしくお願いいたします。


『鳥の巣』 (1994字)

 私の髪は、寿命を迎えた老木のようだった。
 櫛を通そうとすれば折れた枝同士がいくつもの鳥の巣を形成して待ち構えており、ゴールはおろか、途中でリタイアすることすら容易ではない。毎朝1時間以上かけて鳥の巣を一本ずつ元の位置に戻し、なんとか櫛がゴールにたどり着けるようにしても、ぼろぼろな毛先は枝分かれし、出勤中の風に吹かれてまた小さな鳥の巣を作っていた。
 毎朝、始業ぎりぎりまで化粧室で頭上の老木と格闘している私を見て、友人が「良い美容院がある」と声をかけてくれた。
 友人によると、その美容室はどんな人でも、美しく艶のある髪にしてくれる。しかし、店長が少し変わっているのだと言っていた。
 おそらく、櫛を持ったときの私はいつも般若のような形相をしていたのだろう。恐る恐る話しかけてくれた友人は、私に美容院を紹介してくれた初めての友人だった。
 予約は3ヶ月待ち。早く早く、と気持ちは急くけれど、なかなか予約がとれないという事実がその美容院の実力を裏付けてくれているようだと感じた。今までたくさんの美容院に行ってみたけれど、私の頭に生えた老木を若返らせることはできなかった。期待が大きくなるほど落胆も大きくなることは分かっているのに、毎日カレンダーを見ては予約の日を確認するのが習慣になった。
 そして訪れた予約の日。この3ヶ月で季節は変わり、肌寒さと空気の乾きを実感するようになっていた。外気につられ、水分を失い干からびた老木は、朝起きると、全身で大きな鳥の巣を形成していた。もはや自分で修復することは不可能だと感じ、私の頭より一回り大きいサイズのニット帽の中に全てを隠して美容院までの道のりを急いだ。
 その美容院に行くには、迷路のような小道を目が回りそうなほど辿った先にあるらしい。壁が所々剥げ、ツルの伸びた建物たちの間を、友人からもらった地図を頼りに目的地へと向かう。30分ほど歩くと、一段と細い路地の端っこに、大きな木に守られるように建てられた小さな平屋があった。
 美容院の名前は「鳥の巣」という。友人から初めて聞かされたとき、なんて縁起の悪そうな美容院だと思った。友人の紹介じゃなかったら、絶対に入らないだろう。しかし、その友人はこうも言ったのだ。「大丈夫。その鳥の巣からは、金の卵が生まれるから」と。
 呼吸を整え、ドアノブに手をかける。息を吸うと同時にゆっくりと前へ力を入れると、温かい空気と木の香りに包まれた。
 いらっしゃい、と ボソボソとした低い声を探して首をひねると、革張りのロッキングチェアに乗った店主らしき初老の男性がゆっくりと立ち上がるところだった。
 店主が立ち上がった反動で、ロッキングチェアがゆらりと前後に揺れる。そのたびにブラウンの革に映し出された光沢のある白いジグザグの線が上下に動き、手触りの滑らかさやを連想させた。
 私は、異様な存在感を放つロッキングチェアに目を奪われながら、自分の名前を告げる。店主は、軽く頷きながら、「どうぞこちらへ」と揺れ続けるロッキングチェアに案内した。
 まさか、そこで髪を整えるのか?それともこれは、変わり者と噂される店主のボケなのか?
 すぐに判断することができず、思わず店主の顔をまじまじと見つめてしまったが、私からコートを受け取ろうとする店主の目は真剣そのもので、そして有無を言わせぬ絶対的な自信を感じた。
 結局、私は店主になにも言うことができないまま、ニット帽を取り、揺れるロッキングチェアに座った。こんな不安定な椅子の上で私の頭に生えた老木を若返らせることはできるのだろうか。ロッキングチェアが揺れ、顔が天井を向くと、店主のやっていることは鏡で見ることができなくなった。私は、どんなお手入れも見逃さないよう脳内でメモ帳を広げようとしたとき、店主がボソボソとした声で話しかけてきた。
「ここから先は、眠っていてください」
 目元にはタオルを置かれ、膝にブランケットを掛けられた。店主の両手はゆっくりと私の頭の老木を撫でると、まるで鳥の巣なんて一つもないような手つきで優しく頭皮をもみ始めた。店主の指は私の眠気を誘うスイッチを一つずつ押しているようだ。全身の力が抜けるのを感じながら、私は意識を手放した。
 どれだけ眠っただろうか。終わりましたよ、という低い声が遠くで聞こえた気がする。ゆらゆらと心地よい浮遊感とともに、耳元で小鳥のさえずりが聞こえてきた。ぴ、ぴぴ、という声が徐々に形を成してきたかと思うと、上から下に、すーっと滞りなく頭皮が引っ張られる感覚がして、私はゆっくりと目を開いた。
 目元のタオルは取り除かれていた。ぴぴ、ぴぴぴ、という声と共に、金色の小鳥が私の瞼にふわりと風を吹きかけながら羽ばたいていった。視界から消えた輝きを追いかけ、ロッキングチェアを揺らしながら起き上がった。
店主が静かに窓の外へ小鳥を見送ると同時に、 私の髪が風に吹かれて軽やかになびくのを感じた。

こちらで回答させていただきました! https://note.com/kaoru_yukinari/n/nc2af9aea9158 作品のご投稿ありがとうございました

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