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共有結合性,イオン結合性という概念がわかりません。。
「共有結合性が大きい」というのは、原子間の結合において共有結合の寄与率が大きいということであっていますか?
そもそも、イオン結合と共有結合は明確に分けられないのでしょうか?

共有結合とイオン結合が明確に分けられない例がある、ということです。共有結合の寄与が大きいという表現もあるでしょうが、もっと素朴に「共有結合っぽい」と考えたほうが分かりやすいような気がします。初等的なモデルを使って説明しますね。 塩化水素におけるH-Cl結合について考えましょう。この結合は共有結合性である説明されます。共有結合は原子が電子を互いにひとつづつ出し合って共有することで両方の原子が安定となるような結合です。ルイス構造式では H:Cl などと表現するように、H原子とCl原子の間に電子が2個あるイメージです。しかしこの電子2個、HとClの丁度真ん中に存在しているわけではなく、実際はCl側に近い位置にあります。なぜかというと、Clの方が電気陰性度が大きい=電子を引っ張る能力があるためです。 では同様にフッ化水素におけるH-F結合を考えてみましょう。FはClよりさらに電気陰性度が大きいことに注意してください。こうなるともはやH-F結合でHとFの間にある電子対はFに極めて近い位置にまで引っ張られてしまいます。ところでこの状態、「HとFが共有結合をしている」と考えるべきなのでしょうか、それともHは事実上電子対をFに持っていかれているようなものなので「H+とF-がイオン結合をしている」と考えたほうがいいでしょうか。これが「共有結合性とイオン結合性が明確に分けられない」という状況です。共有電子対が片方の原子に強く引っ張られた状態はイオン結合と区別できないし、共有電子対が極限までどちらかに引っ張られた状態こそがイオン結合だと言えます。 共有結合性なのかイオン結合性なのかを峻別するためによく使われるのが「結合する2つの原子の電気陰性度が1.7以上離れているとイオン結合、そうでなければ共有結合」というものです。原子の電気陰性度を用いて共有結合とイオン結合を峻別するのは上の説明と合致しているので分かりやすいところです。上の例で行くと、H-Cl結合は電気陰性度の差が3.2 - 2.2 = 1.0で共有結合的であり、H-F結合は4.0 - 2.2 = 1.8で、境界となる1.7にかなり近いので危ういところですが一応イオン結合的であると言えます。ちなみにイオン結晶としておなじみのNaClは 3.2 - 0.9 = 2.3 でどう見てもイオン結合性ですね。 さて、ではこれでイオン結合と共有結合がすっぱり分けられるのか、というと、直観的にもそんなことないように思いませんか。「電気陰性度の差が1.7」という境界はあくまで単純な結合例を参考に仮置きそしただけでその結合の周囲の状況によってブレますし、もし電気陰性度の差が1.69のものと1.71のものがあったとしてこのふたつは明らかに共有結合とイオン結合に分かれるのかというと、電気陰性度の差の差が0.02しか違わないのにそんなスパっと分けられるようには到底思えません。ゆえに「共有結合性」「イオン結合性」という表現なのです。共有結合性がどの程度でイオン結合性がどの程度、という表現をしたくなるような結合というのは、電気陰性度の差が1.7に非常に近いような結合です。その結合は共有結合とイオン結合、どっちっぽいのか?ということが言いたいんですね。 別の視点から表現すると、「電子が広域に分布することで安定するという量子力学的な性質を利用して結合しているか」あるいは「電子の分布が極度に偏ることで生じる電磁気学的な性質を利用して結合しているか」といも言えるかと思います。量子力学現象も電磁気学現象も「そのどちらかだけが起きる」ということはあり得ないわけですから、常にこの二つの効果が同時に働いているとしてどちらが支配的なのかという話になります。共有結合とは量子力学的効果が支配的な結合、イオン結合とは電磁気学的効果が支配的な結合と言えるでしょう。(急に説明の粒度を変えたのでこの段落は理解しなくても大丈夫です) とりあえず以上です。ところで、実はこの話をもう少し膨らませると共有結合とイオン結合のグラデーションに金属結合も参戦させて三つ巴のグラデーション関係の話をすることが出来ます。共有結合性、イオン結合性、金属結合性のみっつは二原子間の「電気陰性度の差」と「電気陰性度の平均」でプロットされ、三角形を描きます。「ケテラーの三角形」と呼ばれる図です。ぜひ大学の無機化学の教科書(たとえば『シュライバー・アトキンス無機化学』東京化学同人)でご確認ください。

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