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行成先生、こんにちは。
短い小説が好きで、いろいろと書いてきました。
オチで華麗に決めようと思った話ではキレが悪く、ほっこりしてもらおうと思った話ではよくわからないラストになりがちです。
文章や構成が悪いのだろうといじるのですけれど、うまくいった感触はさほどありません。
プロの作家の先生からのご意見がいただきたくて、質問しました。
どうかよろしくお願いします。

「キャンデー」
年を食ってヤキがまわったのか。それとも、ムショの扉を出て見上げた空から、雪がひと粒落ちてきたせいか。今日から俺はまともに生きると誓った。
生まれてこのかた、悪いことばかりしてきた。デカい体を生かし、手荒な稼業にも精を出した。おかげで左の目は、眉から頬をえぐる傷痕でふさがったままだ。
俺はもう、そんなに長く生きられないだろう。
悪事が上手くいった時は、しめしめとほくそ笑んだ。何年かしてふり返れば、うすら寒い笑いに代わっている。
心を入れ代えた証に、何か親切をしたいのだが、まったく思いつかない。死ぬ時に、頬のゆるむような記憶の一つぐらいはあってもいいと思ったのに、上手くいかないもんだな。
場末の食堂で、テレビを横目に飯を頬張る。ローカルなニュースを、アナウンサーがのんびり読みあげる。
近くの警察がクリスマスイベントとして、信号を正しく守っている子どもに、菓子を配っていた。紺の制帽を赤い三角帽にかえるだけで、ずいぶんと華やかになる。
これだな。
 さっそく衣装を買った。デカい体には赤い服がよく似合う。
 問題は顔だった。ふさがった目はアイパッチでかくす。傷痕には白い眉毛とひげ。これでなんとかなるだろう。
 有り金をはたいて菓子で袋を満ぱいにした。雪がちらつくなか、身寄りのない子どもたちの家にむかう。空き巣に手をそめた経験がものをいってか、すんなりと上がりこめた。
「サンタさんだあ」
小さな子どもの大きな声。
 ほんもの? 園長先生じゃないの? 口々にさえずりながら笑顔で集まってくる。
子どもたちだけで留守番をしていたようだ。髪をおさげにした中学生ほどの女の子が、幼い子どもたちにあれやこれやと声をかけていた。
「ねえ、その目、どうしたの」
 しゃがんだ俺よりも背の低い子が、正直な疑問を投げてくる。いっちょう、作り話で乗り切るか。
「若いころ、海賊だったんだ」
「えー」
「宝の島で虎と戦った」
「すげー」
「その時、やられちまったんだ」
「うわー」
「代わりに金貨をみつけた。そいつでプレゼントを買ったんだ。さ、ならんだならんだ」
袋から菓子をとり出し、カードを添えて一人一人に手わたす。
『 メリークリスマス 』
少しでもお祝い気分を出すために、色鉛筆を使って書いたカラフルで下手くそな俺の字。
列の最後だったおさげの女の子の手に、キャンデーの詰まった袋とカードをおいた。
「お姉ちゃんいいなー。たくさんもらって」
「あとでみんなにあげるからね」
少女が一人の頭をそっとなでた。やさしい光景だ。来てよかった。
子どもたちの笑みは途切れることを知らず、いつの間にか俺の気持ちをやわらかに変えていた。
「またねー」
 元気に見送る声を背に、通りを曲がった。
またねー、か。そうだな。また行きたいもんだ。
しばらくはサンタになりきり、繁華街を歩いた。降る雪は量を増し、俺の顔にもとまる。冷たさなんてない。ほてった肌に心地よかった。
ビルとビルのすき間で、赤い上着から腕を抜いた時、制服の警官が俺の前に立った。
「空き巣の被害宅近くで、大柄な影を見たとの通報があった」
 間が悪いことに、そいつもサンタの恰好だったらしい。怪しいと判断され、取調室に直行だ。
 事件のあった時間、俺は子どもたちといた。だがこれは、言うわけにはいかない。
あの中には、本当にサンタが来たと思っている子もいるはずだ。アリバイ調査で刑事が乗りこんだら、嘘だとわかってしまう。
 そんなことになるぐらいなら、俺がまた塀の中に入ったほうがマシだ。
 ただ、すんなり罪をかぶるのもしゃくだから、だんまりを続けた。
 何日かがすぎた。あと一週間ほどで年が明ける。今日はクリスマスだ。
 取調室に入ると、刑事が窓際に立っていた。俺を手招きする。
ならんで眺めたガラスのむこう側では、ぽってりとした雪がゆっくりと落ちていた。
刑事が外に目をやったまま、封筒を差し出した。
「空き巣のあった時間、お前、ここにいただろう」
 宛て名の裏には、子どもたちの施設の名があった。封筒が小さくふくらんでいる。何か入っているようだ。
 逆さにして振ると、名刺ほどの大きさのカードといっしょに、キャンデーが一つ転げ出た。
「うちのクリスマスイベントだと思ったようだ。片目のサンタさんにありがとうと伝えてください、と便箋にあった。まったく、手間かけさせやがって。そのあめ玉はなんだ」
 カードには、お返しのメッセージがピンク色の整った文字でならんでいた。
『 わたしのぶんはサンタさんにどうぞ メリークリスマス 』
 綿雪は途切れることを知らず、いつの間にか街をまっ白に変えていた。

こちらで回答させていただきました! https://note.com/kaoru_yukinari/n/n9fcbfc13aa3f 作品をお寄せいただき、誠にありがとうございました。

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