
ポイントは2つあります。まず、ナイキが質問者さんと同様に「低賃金は自己研鑽を怠った人間の自業自得」と公言している企業であれば私も今回のデータには驚きませんでした。なるほどそういう思想の企業だから当然だよね、という感じです。でも実際はそうではありません。数々の社会問題を糾弾し、それに目をそらす人々を「啓蒙」してきた企業なのにその思想が露呈しているから問題なのです。「低賃金は自己研鑽を怠った人間の自業自得」というのは、仮にそれが本当だったとしても公言できるような内容ではなく、一般的には人間的に・社会的に指弾される発言です。同じような思想を持っている開業医でもブログなどで「低賃金は自己研鑽を怠った人間の自業自得」などと書いたりはしないでしょう。炎上するか、そうでなくとも患者が減ることが目に見えているからです。だからこそナイキもそんなことは口が裂けても言えません。故に、ナイキが質問者さんと同じ思想を持っていたとしても、それが社会的に受け入れられていない思想だということは認識しているのであり、にもかかわらず社会正義であるかのような啓蒙活動を行っているギャップについてはやはり二枚舌の誹りは免れないでしょう。 二つ目に、いくら低賃金であっても労働を提供している以上は社会的に許容されうる下限があると思っています。質問者さんが「活用できる制度を活用して」医学部に入れたことはむしろ「自己研鑽を実らせるためには一定の支援が必要である」こと、裏返せば「公的扶助がなければやはり自己研鑽があってもなお医者にはなれなかったであろう」ことを示唆しています。支援制度を使ったということは、お母様は支援が必要な程度の年収だったのではと想像しますが、それはお母様が「自己研鑽を怠った人間の自業自得」だったからでしょうか?そうではない、という社会的合意があるから公的扶助の制度があるのです。奇しくも、日本の母子家庭の平均年収である240万円はナイキの現場の労働者と同等の水準です。ナイキの労働者は母子家庭並みの状況であり、かつ前の質問箱にも書いたように、物価が高い米国では状況は更に過酷です。かつ、GDPに占める社会保障費は日本よりも低いのです。東大医学部の授業料は60万円ですがハーバードメディカルスクールの授業料は400万円を超えます。「低賃金は自己研鑽を怠った人間の自業自得」という思想が行き過ぎて日本よりもさらに支援の手が少ないのがアメリカという国です。はたして「低賃金は自己研鑽を怠った人間の自業自得」と言える状況なのか、私は極めて疑問です。質問者さんはアメリカで母子家庭に生まれて果たして医者になれたでしょうか。 ちなみに、質問者さんが最低限の経済環境で医学部に入れたのであればきっとお勉強は得意な方だったのでしょう。でも、もっと恵まれた環境であればもっと社会的に成功していたかもしれないのにそれが叶わなかったのが今の姿なのかもしれません。同じ医者でも、祖父が病院設立者で親が衆議院議員という家に生まれて開成中高・東大医学部というサラブレッドのエリート街道を歩んだ豊田剛一郎氏はメドレーを設立して何百億円という資産を手にしています。もちろん豊田氏も頭は良かったのでしょうが、母子家庭に生まれて同じことができたかというとそうではないかもしれません(ちなみにメドレーの共同設立者は開成の学友です)。自己研鑽ができたとしても圧倒的な賃金や資産の差ができるのであり、それは裏を返すと「年収300万円未満の人の中には自己研鑽を重ねてそのレベルにまで上り詰めた」人もいる、ということも示唆しています。 まとめると、私の意見は ・(努力や才能によって培われた)能力によって賃金に差があるのは当然だしそうあるべき ・しかし300万円を切る年収は(特に米国においては)低すぎて搾取のレベルである ・それが「あの」ナイキの従業員の平均年収だというのは二重に驚きである です。
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