
面白い質問! ・ダイジェスト版 初期の空気研究は「空気を調べたらいろんな未知のガスが見つかった」ではなく「空気以外のところから見つかったガスが空気にも含まれることが分かった」で進みます。ここで、特に二酸化炭素と酸素が確認されます。次に、空気を容器に閉じ込めて中でものを燃やすことによって空気から酸素を除去→続けて二酸化炭素も除去→残った気体を調べるという手順で窒素が見つかりました。こうして1780年代ごろには空気の主要成分である窒素、酸素が組成比も込みで突き止められます。アルゴンが見つかるのはここからさらに100年ちょいかかり、ここでようやく液体空気の分留という超絶技巧が使われます。 ・詳細 窒素、酸素、二酸化炭素の中で最初に見つかったのは二酸化炭素です。というか、空気以外で初めて見つかったガス状物質は二酸化炭素だと言われています。1656年にファン・ヘルモントという人が、木炭を燃やしたとき、炭酸塩に酸をぶっかけたとき、洞穴や鉱水のなかなどに共通した気体があることに気付いています。ただしヘルモントは惜しいことに、このガス状気体が何なのかをそれ以上詳しく調べませんでした。「ガス、閉じ込められないし周囲の空気と混ざるしで研究できねぇわ」みたいなことを書き残してます。ちなみに余談ですが、ガス "gas" という言葉を作ったのもヘルモントです。 そこから約70年後、スティーブン・ヘールズという人が気体の収集方法を発明します。彼が発明したのは「水上置換法」です。1727年の彼の著書に装置の図が載っています。これ発明したのめっちゃえらい。ヘルモントはガス閉じ込めるの無理~と言いましたが、70年後のヘールズが閉じ込めたわけです。これでいろんなものを燃やしたり加熱したりしたときに出てくる気体を集めました。ただしヘールズの惜しかった点は、彼は出てきた気体は全部「空気」だと思ってしまってやはりそれらの気体の差異をろくに調べませんでした(もし調べてたら、彼は相当大量のガスの第一発見者になれていたと思います)。現代の私たちが見たらなんで調べないんだと思うところなんですが、実は空気ってアリストテレスの四元素のひとつに数えられていたせいで、当時は「空気は元素なんだから、空気は空気だよ。常識じゃん」みたいな空気だったわけです。仕方ないところがありますね。 1755年にようやくクリティカルな気体研究者が現れます。ジョセフ・ブラックは石灰水を使って二酸化炭素を捕まえる方法を編み出しました。これ、小学校で習った「石灰水に二酸化炭素を吹くと白く濁る」ってやつです。あれを見つけて、ちゃんと理解しました。これもめっちゃえらい。なんでえらいかというと、この方法(およびこれに類する手法)を使うと混合ガスのなかから二酸化炭素だけを除去することができて気体研究にめっちゃ役立つからです。 こんな感じ地盤固めが済んでようやく、満を持して気体研究の偉人たちが様々な気体を空気とは別物として認識し始めます。H.キャベンディッシュ、C.シェーレ、J.プリーストリー、D.ラザフォードなどが酸素や窒素や水素を発見します。酸素は水銀酸化物や硝石を加熱したときに出てくる気体として、窒素は空気から酸素を引いて残ったものとして発見されました。窒素の発見方法はちょっとテクニカルです。まず空気を木炭の上に何度も通します。これで空気中の酸素はすべて木炭の燃焼に費やされて除去されます。その代わりに二酸化炭素が増えますが……二酸化炭素の除去方法はブラックが編み出してくれていたのでした。石灰水に通すなり水酸化カリウム溶液に通すなり(実際はこっちだったっぽい)すれば除去できます。そうして残った空気を水上置換法で集めたら、空気より微妙に軽い気体が得られます。これで窒素発見です。 こうして1770年代に主要な気体の発見が相次ぎ、1783年には空気の組成がほぼ決定されます。ちなみに決定したのはキャベンディッシュで、(当時は呼び方が違うけど)酸素が20.84%と言っています。最新の測定値は20.95%とからしいのでほぼ正解。つよい。 ちなみにもっと強いことに、キャベンディッシュはこの時期の実験ですでに大気中に酸素、窒素以外の主要成分(すなわちアルゴンのこと)が存在することをほのめかした記述を残している(放電を使って空気から窒素ガスも除去した)。アルゴンがちゃんと発見されるのは1894年とキャベンディッシュの時代のほぼ100年後。 1894年にアルゴンを発見したのはW.ラムジーとレイリー卿。ラムジーはもともと窒素化合物の研究者で、マグネシウムを使えば空気から窒素を除去できることを知っていた。というわけで、こんどこそちゃんと酸素と窒素を両方とも除去して残った気体を調べて未知の気体であるアルゴンを発見。 空気という身近な物質に未知の元素が含まれていたとなると、これはもう徹底して空気を調べ尽くさないと気が済まない。というわけで、その時期(1895年)にちょうど登場した熱力学的装置を使って液体空気を作ることに成功した人がいたので、液体空気を分留してやろうということになってやってみたら未知の元素がわんさか出てきてそれ全部不活性ガスでこれ全部新元素じゃーんってなってラムジーは1904年に「希ガス元素の発見」でノーベル化学賞を取ります。 というわけで、空気の研究史、ひとまずおわり! 参考文献 『元素発見の歴史1』ウィークス/レスター 『分析化学の歴史』サバドバリー
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