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仕事でご一緒させていただいたことのある者です(認知していただくまでもの会話はしていません)。根本さんの録音や整音に対する考え方をとても尊敬しているのですが、日本の現状は海外と違いリレコーディングミキサーを付けることがあまり定着していないと感じています。今後増えるべきことだと思っているのですが、どのようにすれば変わっていくのでしょうか。またお仕事出来るように日々精進してまいります。

ご質問ありがとうございます。質問箱なのでどなたかは分からないですが、その節は大変お世話になりました! さて、大変仰る通りで今現在業界ではリレコーディングミキサーという肩書きの価値や立ち位置はイマイチ認知されていません。これは現場録音から仕上げまでを録音技師が一気通貫で行う邦画文化が非常に根深いからです。 しかしながらここ数年、NetflixやAmazon primeなど、外資系配信サイトの台頭により今までの邦画文化には無かったQC(クオリティチェック)という、我々の納品データを第三者機関がチェックして世界中の言語に吹き替えて配信するデータとして質の高い納品物であるか判断し、問題がある場合はクリアするまで納品できない、という仕事が増えてきました。これは今まで日本の映画業界には無かった新しい行いです。 つまり、欧米、ヨーロッパを中心とする海外では完全に分業化されて各々のフィールド(現場録音/エディット/ミキシング)の一流が磨き上げてから納品するデータと同クオリティのものを一人でやってる日本の録音技師は要求されるようになりました。これがいかに無理ゲーかは想像するに容易いと思います。斯くいう私も技師になってから何本も現場〜仕上げまで担当しましたが、自分の経験値の無さ、予算、時間制限などに阻まれ満足のいくMIXができず悔しい思いを何度もしました。 もちろん、私達の業界にも大谷翔平の様な現場同録も素晴らしく、スタジオワークもQCに耐えうるレベルでこなせるスーパーマンみたいな技師さんはいます。が、ほんの一握り、数えられるほどしかいません。 そこで登場してくるのがリレコーディングミキサーなわけです。彼らは映像における音仕上げのプロ中のプロ。もちろん前述した様にリレコミキサーの中にも技術者としてのレベルはあるので全ての人がQCに対する適切な知識と高い整音技術を兼ね揃えているわけではないですが、少なくとも近年、僕の全ての作品をMIXしてくれているリレコーディングミキサーの浜田洋輔は町場の録音技師が束になっても敵わないレベルの仕上げ技術とスピード、高精度な耳を持っています。 外資系配信サイトのクオリティチェックは本当に厳しく、担当した録音技師のみならずラインプロデューサーを筆頭に、撮影後の仕上げ〜納品作業に関わった人なら口を揃えてその大変さを語るでしょう。 そのハイクオリティな納品物を作るには必ず「最上の現場判断、同録素材」と「最上の仕上げ技術、QC経験値」が必要になります。 これがリレコーディングミキサーを必要とする理由に他なりません。日本の録音技師は仕上げ作業までできないと作品に自分の表現を反映できないから仕上げができない作品はやりたくない、という人が多いですが、ほぼほぼ現場とMIXに関して分業化した僕ですが、現場の間にも整音作業に顔だしてミキサーと意見交換して意思を伝えるし、ダビング作業は参加して監督と横並びになってディレクションします。だから自分が仕上げ作業で手を動かさなくても作品に僕の音響的な演出は多分に入っているし、ミキサーが立つことで監督とコミュニケーションする時間が増えるので演出的な満足度も上げれていると思います。事実、最初リレコーディングミキサーという存在に懐疑的だった僕がよく仕事をしているプロデューサーや監督も、一度一緒に作品の仕上げを経験してからはその重要性を認識し、非常に満足してくれています。 また、僕は現場前のマイクテスト段階からRECデータをスタジオでミキサーの浜田とチェックして、使用機材から、ISOトラックのトリム値まで話し合います。これは毎作品必ず行っています。浜田と僕の関係は少し特殊な例かもしれないですが、リレコミキサーを立てることにより確実に現場同録の質は向上し、現場中も問題点があればデータをやり取りして対策を練りながら撮影するのでクオリティを保持できるし、僕も心強いです。 音の作業は主観と客観の使い分けです。浜田の様な優秀なミキサーは、セカンドオピニオンとして僕の同録を波形と音波として意見してくれます。そこに現場の苦労や実作業値は関係ありません。作品の表現を支える上で素材として有用か、質が保たれているか、客観的な意見をくれます。逆に仕上げ中も僕は同じ思いで意見しています。判断値は目の前で鳴っている音だけです。セッション上で何が起きているかは関係ありません。関係性が確立できればこの主観と客観の使い分けができるようになるリレコーディングミキサーのシステムは作品制作において非常に有用だと思っています。 さて、やっと質問の本題に戻ります。「どうすれば日本でリレコーディングミキサーシステムが定着するでしょうか」これに対する回答は一つでリレコーディングシステムでしかできない価値を提供することに他なりません。そして僕と浜田は今それをやっています。 柔軟にスケジュールに対応し、ほぼノーミスでQCを通していく。その評価は実際Netflixさんからもいただいており、ありがたいことに新しい仕事に繋がっています。また、出会うプロデューサーや監督達に僕は常々リレコーディングミキサーシステム、そして浜田洋輔というミキサーの価値を丁寧に説明しています。こういう地道な啓蒙活動と実成果が結びついて業界の土台となっていくのだと思います。 文化、習慣は1.2年で変わるものではありません。コツコツ、実直に成果を上げて価値を啓蒙する他なりません。が、数年前に比べて確実にリレコーディングミキサーの仕事が表に出る様になってきました。去年、カンヌで話題となった『ドライブ・マイ・カー』もリレコミキサーの野村みきさんの素晴らしい整音、MIXが支えています。 全ての作品をリレコーディングシステムで行うのが正解だとは思いませんが、古きを良しとして新しい形が馴染まない文化は廃れていくと思います。選択肢の中に常にリレコーディングミキサーシステムが挙がるようになっていくことを願いつつ、僕はこれからも頑張ろうと思います。 長々と失礼しました。

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