9/23

インド料理、もしくは近いスパイスを使用する地域の料理で、なるべく酸味を含まないものを教えて頂けませんか!

インド料理についていろいろな質問を受けますが、この方向の質問は初めてです! そして、なるほどそういう需要は確かにあってもおかしくないなと気付かされました。ありがとうございます。 インド料理において酸味はとても重要な要素です。特に南インド料理においてそれは顕著で、それが南インド料理がいまいちメジャーになりきれない理由かもしれません。 逆に僕が南インド料理が好きな理由もその酸味に因るところが大きく、他地域のインド料理やネパール料理を食べてても、(もちろんそこにはそれぞれの形で酸味はあるのですが)おいしいけどもっと酸味が欲しい! と思ってしまうこともままあります。 インド料理用語にtangy という言葉があります。英語です。これは直訳すると「酸っぱい」です。インド料理においてはそれはそのままの意味で使われることもありますが、往々にして単にそれだけでは無い複合的な味に対して用いられる印象があります。 僕は「酸っぱ濃い」と訳しているのですが、強い酸味とともにスパイシーさや素材の凝縮感が備わった味で、いわば料理に対する最上級の褒め言葉のひとつです。 この味わいこそが、他の料理には見られないインド料理独特のおいしさを表現している気がします。タンドリーチキンは誰もが知る料理ですが、現地志向の強い店ほど単にスパイシーなだけでなく、レモン汁やヨーグルトの酸味が芯まではっきりと浸透しており、tangy な味わいです。肉を酸味で漬け込むということがほとんど無い日本人にとっては不思議な味付けに感じられるかもしれません。 さてこういうのの逆を行きたい質問者さんにとってもしかしたら一番フィットしているかもしれないのが、俗に「インネパ店」と呼ばれる、ネパール人によって営まれる日本ローカライズされたインド料理店というのが僕の結論です。今やどんな街にでも一軒はある、大きなナンとマイルドなカレーが売りの店ですね。 このタイプの店にtangy はありません。むしろ酸味を巧妙に避けていると言ってもいいくらいです。 こういう店はとにかく徹底して日本人の嗜好にフィットするものを目指す、というか日本人が少しでも違和感を持ちそうな要素を片っ端からオミットする、ということに対してひたすら真摯ですが、今回この回答を書いててそのオミットされる要素の中には「酸味」もあることに今更ながら気付きました。エリックサウス大丈夫かなと心配になってきました笑。 さてそういうわけでインネパ店なら今やどこにでもあるので質問者さんも一安心でしょうが、もしこの質問が「食べに行く」ではなく「自分で作る」前提のものだったら、話は途端に難しくなります。現在日本でこのインネパ店的なカレーのまとまったレシピ本はたぶん存在しないからです。というか英語圏まで含めてもほとんど無いと思います。僕が唯一知っているのが the curry secret というイギリスで出版されたレシピ本です。 もちろんイギリスの本なので、日本のインネパ店のカレーそのままというよりは、その原型となったイギリスの、というかインターナショナルスタイル北インドレストランのそれです。かつて日本のマニアが「テンプレ系」と呼んでいたやつですね。 そしてこの本には写真もなく、レシピも一番肝心な部分が書かれていなかったりします。そしてレシピ通りに忠実に作ってもそんなにおいしくありません。なので実用目的での購入はあまりお勧めできません。 世間ではこれだけ人気があるのにちゃんとしたレシピ本が無い、ってなかなか不思議なジャンルですね。僕が今後新しいレシピ本を出すなら、その中の一章をこれに充てるべきであるような気もしてきました。

スポンサーリンク

スポンサーリンク

スポンサーリンク