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局所麻酔を使っての無痛分娩がありますが、全身麻酔での無痛分娩がない理由はなんでしょうか。妊婦さんが眠ってしまうとお産が止まるのでしょうか?だとしたら妊婦さんが気絶した時に起こすのでしょうか?

あー!なるほど、面白い質問です! その発想はプロには逆にないやつだ。 さて、結論から言いますと全身麻酔による無痛分娩は絶対に不可能です。 それどころか赤ちゃんにとっても有害です。 理由は大きく分けて2つあります。 1つ目は「そもそもお産が進まないから」。 麻酔における基本的概念に「全身麻酔の三要素」と呼ばれるものがあります。 それが『鎮静』『鎮痛』『筋弛緩』です。 『鎮静』は要するに意識を失うこと≒眠ることです。 『鎮痛』は痛みを感じなくすることです。 『筋弛緩』は全身の筋肉に力が入らなくさせることです。 この三つは全身麻酔では絶対に欠かすことができません。 そして出産に必要な『いきみ』とは『筋肉の収縮』です。 『筋弛緩』をさせている限り、筋肉の収縮は起きません。つまり、物理的に産まれないんです。 え?薬を使って『鎮静』させて強制的に眠れてりゃいいんじゃないの?寝てる間にお産が進むでしょ?とお考えの皆様。そうはいきません。 確かに薬の力で意識を奪うことは可能ですが、『鎮痛』がなければ痛みに体がメッチャ反応します。 脳は寝てるけど体は「イッテエエエエエエエエ!!!!!!!!」と反応します。血圧も脈拍も上がります。体の状態は全く安定しません。 わかったよ、それなら『鎮静』と『鎮痛』させりゃいいんだろ?とお考えの皆様。まだ足りません。 『筋弛緩』してないとどうなるか。体が勝手に動くんです。 皆様も寝ながらいつの間にか寝返りしたり布団がふっとんだりしてますよね。その現象です。 意識のない人間が勝手に体を動かしたら危険極まりありません。手術中や分娩中ならなおのことです。 というわけで『鎮静』『鎮痛』『筋弛緩』は全身麻酔に欠かせません。よって全身麻酔中にお産はできません。 ここまでが1つ目の理由。 2つ目の理由は、「赤ちゃんに薬が移行するから」です。 局所麻酔の薬は母体の神経のみに作用するようにできていますが、 全身麻酔の薬は母体の血管内に注射する⇒子宮内の赤ちゃんにも薬が届く、という作用が起きます。 その状態で赤ちゃんが産まれたらどうなるでしょうか。 そう、赤ちゃんも全身麻酔状態で産まれるんです。 麻酔が自然に切れるまでの間は意識がありませんし、自力で呼吸もしません。 一応、それでも全身麻酔しなければならない状況というのもまれに存在しますが、その場合は小児科の先生がすぐに赤ちゃんに人工呼吸を開始します。 3000gあるかないかの赤ちゃんに人工呼吸を行うのは一般の方々が想像するより100000000倍難しいですし、うまく出来なかった場合のリスクもあります。 よって、余程の超緊急事態を除いてお母さんに全身麻酔をかけることはしません。 というわけでお分かり頂けましたでしょうか。

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